21世紀末、人々はちょっとした休暇で太陽系の色々な星に旅行できるようになっていた。各惑星の周回軌道には宇宙ステーションがあり、そこにはホテルやレストラン、そして娯楽施設等が完備されていた。
人々は宇宙遊泳や無重力の世界等を楽しむ為に色々な星へ旅立っていった。
その中に一人の青年がいた。彼の名前はガイ・フォスター。
小さい頃から宇宙が大好きで宇宙へ行くことを夢みていた青年だ。
今回ガイは、その念願がかない宇宙へと旅立ったのである。
ガイが地球を旅立ってから6時間後、火星の周回軌道上の宇宙ステーションの中にいた。長旅の疲れもあったが初めての宇宙なので時間を無駄にしたくなく、宇宙ステーション内を色々と見て歩いた。その時、髭顔の男に声をかけられた。
彼はこの宇宙ステーションの責任者であるタッド・ウィリアムズだ。
「火星は始めてですか?」
「ええ、前々から来てみたいと思っていたんですけど、なかなかまとまった休暇が取れなくて今回、初めてきました。」
「そうですか、ここはとてもいい所だからゆっくりと楽しんでいくといいですよ。何か分からない事や困った事があったら何でも聞いてください。」
「有難うございます。」
そんな取り留めのない会話の後、ガイはおなかが減っている事に気がつきバーラウンジの方に足を向けた。宇宙では食料や飲み物は人工的に作られている。
原子レベルでの復元が可能になったたまものだ。
ガイは復元マシーンの前に立ちどうやっていいか悩んでいるとそこへバーラウンジの店員がやってきた。彼の名前はジェフ・ローランド。
「何かお困りですか?」
「注文したいんだけど初めてなものでやり方が分からないんです」
「簡単ですよ、そこにカードを入れてそこのプレートに指を乗せてください。そうすると機械があなた本人である事を確認します。確認が終了したら頼みたい物を言って下さい。ただ、アルコール類は味だけは復元されますけどアルコールは入ってませんよ。」
「有難うございます。」
酒等を飲む気は全くないガイはとりあえずパスタでも食べるかと思い、言われた通りに注文をした。
出てきたパスタは出来たてで完全に地球上で食べるパスタと変わらない。
ガイはその事にえらく興奮をしながらパスタをたいらげた。
すると、満腹になったガイを急に睡魔が襲ってきた。さすがに疲れているので自室に戻って眠る事にした。
自室に戻ったガイはベットの上にゴロンと寝転がった。
眠りについてどれくらいが経った頃だろうか、ガイは不思議な夢を見た。
夢の中でガイは一人で宇宙遊泳を楽しんでいる。あたりは真っ暗な闇。太陽の光を反射した色々な星達が綺麗に見えている。その中で地球を見つけ、しばらくボーッと宇宙を漂いながら眺めていると、頭の中にどこからともなく声が聞こえてきた。
「君がガイだね」
「何年も待っていたのだぞ」
聞き覚えのある声だ、しかし思い出せない。誰なのだろう???
そこで、ガイは目を覚ました。部屋のインターホンが鳴っている。インターホン越しに聞こえてきた声を聞いた瞬間にはっと思い出した。
その声はまさしく夢の中の声だった。
声の主は宇宙ステーションの責任者であるタッドである。
タッドは翌日にガイが予約していた宇宙遊泳の確認に来たのだ。
「明日、宇宙遊泳の予約をされてますが、その前に色々とチェックしなければいけない事があるので予約時間の1時間前には来て下さい。」
「分かりました、1時間前ですね。」
「場所はシャトルの登場口の横ですよね?」
「いえ、今回はガイ様だけですので別の場所になります。」
「え!?他には誰もいないんですか?」
「はい、明日はガイ様だけです。」
「そうですか、それでどこへ行けばいいんですか?」
「シャトル搭乗口の向かいにフォロデッキと書いた扉がありますから
その中でお待ちください。」
「フォロデッキですね、分かりました。」
「それでは失礼します。」
タッドが出て行った後、ガイはふと時計に目をやった。
時計はすでに夜の10時を指していた。ガイは、明日の宇宙遊泳にそなえてモーニングコールをセットして眠る事にした。よほど疲れていたのかあっという間に深い眠りについた。
今度は夢を見る事もなくモーニングコールで起こされるまで目を覚ます事もなかった。
翌日、目を覚ましたガイは宇宙遊泳の準備をしてとりあえず朝飯を食べにバーラウンジに向かった。ラウンジに入ると中には店員のジェフ以外には誰もいなかった。特に気にもとめずにトーストとスクランブルエッグそれにコーヒーを注文して食べる。と、タッドがラウンジに入ってきた。
ガイは軽く会釈をして朝食を取っていると、タッドが横にやってきて話しかけてきた。
「この後は宇宙遊泳ですね」
「そうなんです、今からどんなものかワクワクしてますよ。」
「とても素晴らしいですよ、色々な星達が綺麗に輝いて特に地球は
とても綺麗ですよ。」
「他にはどんな星が見えるんですか?」
「太陽系にある星は殆ど見えますよ。」
「どれがどの星か分かりますか?」
「遊泳中は無線で色々と解説されますから大丈夫ですよ。」
「それを聞いて安心しました。色々と調べて来たんですけど宇宙空間は真っ暗でどっちが上か下かが分からないから不安だったんですよ。」
「大丈夫です。全く分からない人でも分かるように解説してますから。」
「それでは、そろそろ行ってきますね。」
「楽しんで来てください。」
ガイは席を立ってフォロデッキへと向かった。
フォロデッキの中では数人の職員がいた。ガイは彼等から色々説明を受けた後、身体検査をされた。もし、この身体検査で不適格とされるとこの旅では宇宙遊泳が出来なくなるのだ。
ガイは少し緊張しながら身体検査を受けた。結果は適格とでてほっとした。
そして、いよいよ宇宙遊泳の時が来たのだ。
ガイはこれからどんな体験が出来るかドキドキしながらハッチが開くのを待っている。ゆっくりと目の前のハッチが開き宇宙空間が見えてくる。完全にハッチが開くと無線で外に出る指示が来た。
「ゆっくりと外に出て行ってください。外に出たら後は先ほど説明したとおりにボディースーツに付いているコントローラーで操作して自由に宇宙遊泳をお楽しみください。それでは、どうぞごゆっくり。」
ガイはゆっくりと宇宙空間へと出て行った。これから始まる不思議な体験と彼が遭遇する誰も信じられない事実があるとも知らずに。。。
ガイは初めての宇宙遊泳をゆっくりと楽しんでいる。
太陽の光に反射して綺麗に光る星達、真っ暗な闇の中に青々と光っている地球、それらをゆっくりと眺めていると頭の中にどこからともなく声が聞こえてきた・・・。
そう、昨日の夢の中の声と同じあの声である。
「君がガイだね」「何年も待っていたのだぞ」
初めは無線から聞こえてきていると思っていたのだが、どうやら違うみたいだ。
ガイは慌てて無線でステーションと連絡を取ろうとした。
しかし、無線やその他のコントローラーが全く作動しない事に気がついた。
ガイはあわてながらも頭の中に聞こえてくる声に対して答えた。
「そうですよ私はガイです。いったいあなたは誰なんです?」
「私が誰かは問題ではない。我々は何年も前から君が来る事を待っていたのだ。」
「私がくる事を知っていたのですか?」
「そうだ、知っていた。君が絶対にここに来る事をな!」
「なぜなら君は我々の仲間だったからだ。」
「仲間?どういう事ですか?」
「君は本当はここのスペースの人間ではないのだ。我々側のスペースの人間なのだよ。」
「我々側?どういう事です?スペースっていったい何?私は地球で生まれ育ったんですよ。」
「君が地球で育ったのは確かだ。」
「しかし、生まれたのは我々側なのだよ。ある事がきっかけで君はそちら側のスペースへ飛ばされてしまったのだ。」
「さっきから、スペース、スペースって何の事かさっぱり分からないよ」
「言葉で言っても分からないだろうから今から君を我々のスペースに連れて行く。」
「ちょっと待って。我々のスペースに行くってどういう事?」
「今から本当に君がいるはずだった所に連れて行ってやるという事だ。とにかく
来て見れば分かる。」
その瞬間、ガイの体はいう事をきかなくなり意識もなくしてしまった。
なくなった意識の中でまたタッドの声が聞こえてきた。
「ここが君が居るはずだったスペースだ。」
その声と共にガイの意識が戻った。ガイは周りを見回すがそこはさっきまでいた
太陽系の宇宙空間そのものだった。太陽も有り地球も有り月も有る。
全てが全く同じに見えた。次の瞬間、目の前にタッドが現れた。それはまさしく宇宙ステーションに居たタッドと同じ容姿をしている。そんなタッドが話し掛けてきた。
「驚いたかい?」
ガイは自分がからかわれているのだと思い聞いてみた。
「私をからかっているんですか?ここはさっきと同じ所じゃないですか何が違うスペースなんですか?」
「分からないのも無理はないね、ここはさっきのスペースと同じに見えるけど違うんだよ!」
ガイは混乱してきた。確かによく見てみると宇宙ステーションもなければボディースーツも着ていない。それ以外で違う所は全くないように見えた。
それを察知したかのようにタッドが口を開いた。
「こっちのスペースでは君がさっきまでいたスペースと何も変わらないように見えるだろ。しかし、違うのだよ。向こうのスペースは我々が作ったスペースなのだよ。」
「どういう事ですか???」
「大昔、こちらのスペースでは今の君がいたスペースと同じ事が起きていたのだ。地球上だけに文明が繁栄していた。しかし、その繁栄があだとなり地球上のオゾン層がなくなり絶滅の危機が訪れた。その時に一人の救世主が現れたのだよ。それが君のご先祖様だ。」
「君のご先祖様も元は違うスペースから来たらしいのだが詳しい事は誰も知らない。」
「しかし、君のご先祖様は空間と時間は思考と繋がっているという事を知っていた。そして、自分で新しいスペースを作り出せる事も知っていたのだよ。」
「そこで、絶滅の危機にあった我々のスペースと全く同じスペースを作り出す事にしたのだ。」
「そして、地球だけを我々のスペースに移動させてそこに我々が移り住む事にしたのだ。」
「しかし、地球をこちらに移動させる事は出来なかった。」
「なぜですか?」
「君も地球の歴史は少しくらい知っているだろ?出来たばかりの地球では人類が生活できる環境ではないのだよ。生活できる環境になるにはかなりの時間がかかるのだよ。」
「そこで、そこには我々の先祖ではなくて新しい人類を入植させる事にした。」
「時間をコントロール出来る君のご先祖様が時間をコントロールして自分の子供を退化させて新しいスペースに送り出す事にしたのだよ。それが向こうのスペースでの生物の紀元でもある。」
「ちょっと待ってくださいよ。もし、それが本当の話なら私以外の人達もこちら側の人って事じゃないですか?それに、あなた達も絶滅はしてないじゃないですか。」
「我々は極一握りの才能を持った人々だけ宇宙ステーションに避難して他の人々は地球上で死滅していったよ。そして、オゾン層の回復を待ってまた地球上で暮らすようになったのだよ。」
「それに君以外の人達は繁殖や進化の過程で時間と空間をコントロールする力が弱くなってしまったのだよ。」
「私もそんな事は出来ませんよ。それにもし、コントロールが出来るとしても私の力も弱まってるって事じゃないんですか?」
「いいや、君はコントロール出来るのだよ。なぜなら君は我々側で生まれて我々が退化させ、向こう側の人類と同じようにして送り込んだのだから。
それに君は唯一救世主様と血が繋がっているのだよ。」
「もし、その話が本当だとしてなんで今さら私をこっちに連れてきたんですか?」
「それはむこう側が今、昔の我々と同じ状態に近づいているからだよ。」
「オゾン層がじょじょになくなり始めていてこのままでは絶滅してしまう。そこで、君を呼び戻して君に向こう側の救世主になってもらおうと思ってね。」
「私がですか?冗談でしょ〜」
「いいや、本気だよ。」
「今ならまだ絶滅する前に新しいスペースで出来た地球が生活できる環境に間に合うのだよ。」
「あなた達がやればいいじゃないですか。」
「それが出来れば問題なくやっている。我々には出来ないから君が来るのを待っていたのだよ。」
「なぜ、出来ないのですか?」
「我々は時間と空間をコントロールする事は出来るようになった。しかし、新しいスペースを作れるまでにはなっていないのだ。」
「でも、君は直系の血筋だから今から訓練次第では新しいスペースを作れるようになるはずなのだ。」
「もし、もしですよ。私が出来るようにならなかったらどうなるんですか?」
「我々と同じ道をたどる事になるだろうね。」
「じゃ〜もし私が来なかったらどうしてたんですか?」
「君は偶然に来たと思っているようだがそれは違う。君を向こう側のスペースに送り出す時にちゃんと君が宇宙に興味を抱くようにしておいたのだよ。一種のマインドコントロールみたいなものでね。」
「そうなんですか、でも私は今の状況を信じられないですよ。だから私に救世主になれとか時間や空間をあやつる事が出来ると言われても何がなんだか・・・」
「それは無理もない、しかし君達のスペースにもそれほどの時間的余裕はないのだ。だから、ここは騙されたと思ってしばらく我々の言うとおりにしてみてくれないか?」
ガイは返事をするのを躊躇した。躊躇するのも当たり前の事だ、ガイにしてみれば念願の宇宙旅行に来ただけなのに、いきなり訳の分からない事を言い出す人と出会い、君は時間と空間を思考でコントロール出来ると言われても信じろという方が間違っている。しかも、救世主になってくれなんて言われても何がなんだか全く分からない。
ガイは色々と考えた末にタッドのいう事を信じるわけではないけれど
とりあえず言われたようにしてみる事にした。
「分かりました、やってみます。」
「そうか、やってくれるか。では、早速、君を我々側の地球に案内しよう。」
その言葉をタッドが発した直後にガイとタッドはすでに地球上に立っていた。
タッドに促されるままにガイはとある建物の中に入っていった。
建物の中にはガイとタッドの他にもう一人の人物が立っていた。
それは、宇宙ステーションのバーラウンジの店員ジェフだった。
ジェフはガイの方に近づいてきた。
「待っていましたよガイ。」
「これから私があなたを訓練します。」
「どんな訓練なんですか?」
「訓練といっても難しい事は何もありませんから心配しないでください。
メンタルトレーニングみたいなものです。あなたの意思で空間と時間をコントロール出来るようにします。それが出来るようになったら新しいスペースを作る訓練に入ります。」
「それでは早速始めましょう。そこの部屋に入って中央のイスに座ってください。」
ガイは言われるがままに部屋に入り中央にポツンと置いてあるイスに座った。
イスに座ると同時に頭上からヘルメットのような物が降りてきた。部屋の中にはスピーカーを通したジェフの声が聞こえて来た。
「そのヘッドギアをかぶって下さい。ヘッドギアがあなたの手助けをします。」
言われるがままにガイはヘッドギアをかぶると勝手に自分の頭のサイズに調節された。すると、ヘッドギアの中にはヒーリングミュージックのような音楽が流れてきた。ガイはその音楽を聴きながら意識が遠のいていくのを感じた。
遠い意識の中でジェフの声だけが聞こえてくる。
「さて、これからまずは空間をコントロールする練習をする。意識を集中させて
自分で過去に言った事のある所を思い浮かべてみてください。」
ガイは色々と考えたすえに子供時代を過ごした場所を思い浮かべる事にした。頭の中で思い出せるだけの状況を浮かべてそこに意識を集中した。すると、体が一瞬軽くなり次の瞬間にまた重力を感じた。
そこは、確かにガイが子供時代を過ごした場所である。友達と一緒に遊んだ
湖や森等、全く同じ光景が目の前にひらけている。しかし、自分の体は
そこには存在していない。
すると、頭の中にジェフの声が聞こえて来た。
「流石ですね。一回で出来てしまうとは血は争えませんね。」
「今、居る所は現実の世界なんですか?」
ガイは頭の中でそう尋ねると
「その通りです。あなたが頭の中で描いた場所そのものです。」
「でも、私はいませんよね?」
「あなたの体はイスの上に座ったままですが意識がそこに移動しているのです。
今は訓練中なので意識だけをそこに移動させています。」
ガイはようやく少しだけタッドの言っていた事を信用することが出来た。
そんな事を考えていると次の指示が来た。
「次は私が指示した所を思い浮かべてください。それはあなたの中学時代の教室です。」
ガイは言葉のままに自分の中学時代の教室内を思い浮かべた。
しかし、いくら思い浮かべた所で何も起こらない。
しばらく集中して思い浮かべていると頭の中にジェフの声が聞こえて来た。
「これは空間だけではなく時間もコントロールする訓練です。だから、教室だけを思い浮かべても今、現在、その教室は存在していないためにあなたはそこに移動する事が出来ません。時間を意識してみてください。」
そう言われてもガイには時間を意識するという事をどうやればいいのか
全く分からない。一生懸命に時間を意識しようとしていると頭の中に何やら時計のような物が浮かんできた。その時計のような物には数字が書いてある。しかし、その数字は今まで見た事のあるどの年代とも違う数字である。西暦でもなければ年号でもない。しかし、ガイはそれが宇宙暦である事を直感として分かったのである。
そこで、その数字を自分が中学生だった時を逆算して思い浮かべた。すると、空間をコントロールした時と同じように一瞬軽くなって次の瞬間にまた戻った。
当たりを見回すとガイは中学生としてクラスメイトと共に授業を受けている光景が目に飛び込んできた。まさしくそれは中学時代に自分が過ごした学校であり教室でもある。
「これで信用してくれたかな?」
ガイはこれで完全に信用したわけではないがかなり信用していた。
「これで第1段階は終了です。」
ジェフの声が頭に流れ込んできた。その瞬間にガイは意識が戻り元にいた部屋に戻ってきた。ヘッドギアが緩み勝手に外れて上へと戻っていった。しばらくイスの上で自分が今、経験した事を色々と考えているとタッドとジェフがやってきてタッドが口を開いた。
「いくらヘッドギアの助けがあったとはいえ、さすがです。我々が思っていた以上のできです。今日はこれくらいにしておきましょう。」
タッドの案内で同じ建物の中にある一室に案内された。
そこは宇宙スーテション内の自分の部屋とそっくりの部屋だった。唯一、違う所と言えばフード復元マシーンがあることだった。
「食事はそこの復元マシーンで好きな物を食べてくれ。それでは、明日のトレーニングに備えてゆっくり休みなさい。」
そう、言うとタッドは部屋から出て行った。
食事を取りながらガイは今日の出来事を色々と考えてみた。
何が起こっているのか全く分からない。
とにかく、言われた通りにするしかないことは分かっている。それでも考えないではいられなかった。
いったい何が起こっているのか?
本当にここはタッド達が言う違うスペースなのか?
もしかしたら夢ではないのだろうか?
そんな事を考えていると段々と眠っていってしまった。
翌朝、ガイは自然と目を覚ました。それを見ていたかのように
部屋にジェフが入ってきた。
「よく眠れたようですね。朝食を取ったらすぐにまたトレーニングを始めます。」
「今日はどんな事をするんですか?」
「今日はヘッドギアを使わないで空間と時間をコントロールするトレーニングです。きっとすぐに出来るようになりますよ。」
そういうとジェフは部屋を出て行った。
朝食は食べた後、ガイは昨日トレーニングをした場所へと向かった。トレーニングルームに入るとタッドとジェフがいた。ガイが部屋に入ってきた事に気が付くとジェフが近づいてきて今日のトレーニング方法を説明してきた。
指示どおりにイスに座って昨日やったように行きたい場所を思い浮かべる。今日はヘッドギアをしていないせいか昨日のようには簡単に行かない。
思い浮かべてから30分くらい経った頃だろうか、だんだんと意識が薄くなっていくのを感じた。昨日とはなんとなく違う感覚だった。さらに意識が薄くなっていく。次の瞬間、ぱっと目覚めた。
しかしそこは行った事もなければ見たこともない所、真暗な空間の中に自分の
意識だけがポツンと存在するかのような不思議な所。
まだ、何も存在していない宇宙空間のようだ。しばらく周りを観察していると何やらガスのような物が現れ始めた。そのガスの中心には星のような黒いものが出来始めじょじょに熱と光を放ち始めた。
太陽の誕生のようだ。
そして、他にもじょじょに色々な星が出来始めた。太陽系の誕生だ。
その瞬間、意識が飛ばされる。飛ばされた場所はどこかの星の上のようだ。
周りを見渡すと岩山と海しか見えない。ガイは高校時代に授業で見たビデオの地球上の生命誕生を見ているような気になった。
今、ガイの目の前に広がっているのはまさしく生命誕生前の地球その物だった。そんな中、海の中ではその時に頭の中にジェフに声が聞こえてきた。
「今、あなたが見ている光景はあなた自身が作り出している物ですよ。まさに、あなたは今、新しいスペースを作り出したのです。」
その瞬間にガイはトレーニングルームに戻ってきていた。
かなり、疲れてはいるがそれは心地の良い疲労感だった。
周りにはタッドとジェフが立っていた。
「ご苦労様です。さすがですね、こんなに短期間に出来るとは
思っていませんでしたよ。」
「まったくだ、さすがとしか言いようが無いな。これで、多くの
人たちが救われる事になるだろう。」
「今日は疲れたでしょう。もう、休んで頂いてけっこうですよ。」
その言葉を聞いたガイは部屋をでようと立ち上がった瞬間、目の前が真っ白になった。次にガイの目に飛び込んで来た物は自分を照らす蛍光灯だった。ガイは全く何が起こっているのか分からずに周りを見渡した。周りには何やら医療器械のような物が並んでいる。しかも、その機械は自分に繋がれている。
何がなんだか分からないで色々と考えているとそこに看護婦らしき人物と医者らしき人物が現れた。
彼等は驚きの表情でガイの事を覗きこみ口々に奇跡だと話している。その後、彼等から自分がどういう状況かを説明された。それは信じられない事だった。ガイは今から15年も前の大学の授業中に意識を失った。どんな検査をしても全く原因不明のまま15年間、眠り続けていたという事だった・・・。
15年間、眠り続けていた間ガイは夢の中で生きていたのだ。そして、その夢はある一部分を覗いて現実となっていた・・・
終わり