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  • ○頂き物
  • 花の咲く家(なる.著)3話完結 1. 2. 3.
  • 封印の少女(なる.著)4話完結 1. 2. 3. 4.
  • Space Maker(Chaos 著)1話完結 1.
  • *封印の少女 (なる 著)

    1.
     桜前線北上中で日本全国花見フィーバー到来のなか、私とカシワギマサハルはのほほんとお茶なんぞを飲みながら、宴会とは程遠いまったり空間にて花見遂行中だった。
     場所はカシワギ邸。一本のみごとな桜木が今年も満開に咲き誇っていた。
     カシワギマサハルが私の前に現れたのも、桜の季節だった事をあらためて思い出す。
    「あぁァァ、春野サン。剣客商売の再放送が始まってしまっていますよ」
    「えぇ?!ぼんやり花なんて見てる場合じゃないじゃない!」

     時はちょっと2年前にさかのぼります。

     突然となりの空き屋に引っ越してきたのは、金髪碧眼の謎の外人だった。
     その噂はまたたくまにこのご近所に流れ広まる。なんといってもおきらく主婦の多い町なのだ。
     我が秋野家は、お隣のよしみということで最初にその謎の外人と接触を持つという光栄な立場にたたされたわけだが(要するに引越しのご挨拶というやつね)、お母さんなんて浮き足立っちゃって、玄関先に現れたその金髪碧眼さんに対し、謎の英語を連発している始末だった。
     金髪碧眼の外人はそんなすっとんきょな母を笑顔で受け入れながら、非常にスムーズな日本語で挨拶を述べる。
    「どうも、今度隣に引っ越してきました柏木雅治と申します。これ、つまらないものですが皆様でお召し上がりになってください。男1人暮らしなものですので、何かと至らぬ点もありましょうけれど、どうぞよろしくお願いします」
     いまどき、引越しの挨拶をこれほど完璧に言うことのできる人がいるだろうかというくらいに、折り目正しい挨拶を繰り出したカシワギマサハルは、あっけに取られる母に苦笑しながらも自分が生まれも育ちも日本であることを伝えた。
    「ついでに申しますと、茶道の方も少々嗜んでおりまして、自宅の方で教室なども開きたいと思っているのですが、かまわないでしょうか?」
     我が家としてはかまうもかまわないも別にない。
     隣で地底人発掘教室を開かれるのとは違うのだ。茶道がありとあらゆる面において、周囲に迷惑を及ぼすであろう可能性は見出せなかった。
     それが私とカシワギマサハルとの最初の出会いだった。劇的な側面も運命を感じるような瞬間もあったもんじゃない。ごくありきたりでごく当たり前の日常的引越風景。
     ただ、彼が隅っこで観察している私に対してにっこり笑った笑顔だけは、妙に頭から離れなかった。

     笑顔にちょっと心惹かれようが、折り目正しい挨拶をされようが、カシワギマサハルが謎の外人である事にかわりはなく、私はいつだってカシワギマサハル宅の門前を通り過ぎるときにはなんとなくビクビクしたものだった。
    「おはようございます」
     彼は私が学校に行く時間には必ず玄関先で水をまいていた。雨の日には雨合羽を着て水をまいていた。一体どういう意味があるのだろう?
    「おかえりなさい」
     帰る時刻には玄関の掃除や庭木の手入れなどをしていた。カシワギマサハル宅の生垣はそれほど高くないので帰ってくる姿など丸見えなのだ。
    「いってらっしゃい」
     私がどこかに出かけるときには、必ずどこからともなく出てきてはそう声をかけた。どうして私が外に出てくるタイミングがわかるのかと不思議に思ったりして、本気で「カシワギマサハルストーカー説」を心配したりもしたもんだった。
     あとから考えると、彼の能力があれば私がどのタイミングで外出するかを知るくらいはたいした事じゃない。カシワギマサハルの能力はその程度の事を軽く凌駕する。
     でも、そのときは真剣に気味が悪かった。
     だから、
    「良かったら、中に入ってお茶でもいかがですか?」
    と、初めて誘われたときには、私はもう綺麗な体ではいられないんだろうかと本気で恐怖のあまり気を失いそうになったものだった。
     失わなかったから、ダッシュで逃げたけど。

     それからもカシワギマサハルには再三誘われつづけたのだが、捕まったら逃げられないというわけのわからない一方的な恐怖感から私はそれを断りつづけた。
     
     その頃の私は毎晩嫌な夢を見つづけていて、精神的にもちょっと参っていた。
     夢の内容はその日によって違うのだが、毎日決まって後味の悪い気味の悪い夢。
     人を殺したり、殺されたり、人間が殺されているところを黙って見ていたり、自分で自分の指の爪を一枚ずつはいでいったり。
     そういう夢を毎晩毎晩半強制的に見せられつづけ、夢だとわかっているので恐怖は感じなかったがうんざりはした。
    「顔色が悪いね」と友達に言われるようになり、体育の時間に急に意識を失ったり、保健室で眠っているときにまで夢を見るようになった。
     病院にいっても「思春期特有のうつ状態」という「お年頃」のせいにされ何の解決も見出せない。 はじめは楽観視していた感があった私だったけれど、さすがにそれが一月も続くと不眠状態に陥ってしまっていても無理はなかった。
     ましてや夢は日を追うごとに残酷さを増し、今では一晩のうちに何人の人間を殺し、何回自分の命を失っているかわからない。
     夢の中で私は当然のことのように自分で殺した他人の血をすする。時には母親の血を。時には自分の手首を噛み千切って。
     夢だから痛みはない。血をすすっているときは、それに対する嫌悪感も罪悪感もない。人が肉を食べるように私は血を欲している。夢の中で人の内臓を取り出し食べるのも、頭蓋骨を割って脳を飲み干すのも、夢の中にいる間はまったく不自然なことですらなかった。
     朝起きてあまりの気持ち悪さに泣きながら吐く。家族の誰にも気付かれないようにこっそりと吐いた。
     一体自分がどうなってしまったのかわからない。


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